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経営学研究者のノート:企業と社会の調和、ウェルビーイングを目指して

従業員満足のための人的資源管理 

ゼミのためのテキストを探していたら、いいものを見つけました。

従業員満足のための人的資源管理 / 岩出 博【編著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア

 

目次です

第1部 現代日本の人的資源管理の基本

1章:採用管理

2章:配置・異動管理

3章:従業員の離職と退職の管理

4章:能力開発管理

5章:作業条件管理

6章:人事評価

7章:報酬管理(賃金・福利厚生)
第2部 現代日本の人的資源管理の課題

8章:ワークライフバランス

9章:ディーセントワーク

10章:若年層の転職行動とプロフェッショナル志向

11章:やりがい搾取

12章:ハラスメント

13章:ダイバーシティ・マネジメント

14章:ホワイト企業をめざす労働CSRの実践

 

前半部で基本的なものを紹介し、後半では時事的で学生が興味を持ちそうな内容を紹介。ディーセントワーク、やりがい搾取、転職など、就活前に知って、調べて、議論しておいてほしいことが扱われていて、ゼミにちょうどよさそうです。

 

さて、写真はあんまり関係ないのですが、ナマケモノとピアノです。

撮影協力 法本ピアノ教室:

homoto-piano.crayonsite.com

ワークシェアリングというとおおげさかもしれませんが、

日本人はより短く働いて余暇をゆっくり過ごした方が幸せになれそうですね。

そういうことはみんな思っていそうですが、みんな揃って不幸で居続けることを選んでしまうのも日本人の特性かもしれません。

 

なまけものピアノ

 

 

 

 

『ウェルビーイング経営の考え方と進め方』5章先進企業の施策、論理、プロセス、 第6章『実践に移る前に』概要・まとめ

 

森永雄太(2019)『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(株)労働新聞社 5章先進企業の施策、論理、プロセス、第6章『実践に移る前に』概要・まとめ

 

第5章

 

ここでは、SCSKとフジクラという早期、自主的に健康経営に取り組んできた企業の事例が紹介されている。

 

SCSK

・まずは労働時間・負担削減してから仕事のやりがい(エンゲージ面と)を高める

という順番

・健康マイレージなどの健康習慣のインセンティブ付け、巻き込み

 

フジクラ

 ・身体的活動量の増加、不健康生産性低下スパイラルから健康生産性向上循環への切り替え

  ・例:8000歩という適正目標の設定、チーム戦

 ・メンタルヘルス、1次・0次予防でより積極的な健康経営をしている。

 ・個人だけでなくチーム、組織単位で取り組み

 ・「楽しそう」な仕組みづくりで自律性を損なわず巻き込む

 ・仕事・職場に関する改善について話し合い意見を述べる機会、良いものは実現

 ・(歩行推奨などの?)短期的にコンディションへの影響が期待できる取り組みに加え、
長期的には能力育成をして難しい仕事にもチャレンジできるようにするという方法

 ▼能力育成の詳細についてはこの章に説明がない。

 

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第6章『実践に移る前に』

 

6.1.先進事例の共通点

 ・1:トップのコミットメント

 ・2:健康習慣の促進:歩数など身体的活動量など

 ・3:チーム単位での取り組み:コミュニケーションと一体感醸成

 

6.2. 先進企業間の違い

 ①巻き込み方

 ・SCSK

・トップからライン管理者(現場管理者)に働きかけ、ライン管理者が従業員に
強く働きかける

  ・金銭的なインセンティブも提示

  ・結果、参加者が急激に増えすぐに全体が参加

フジクラ

インセンティブはあるが、ちょっとしたご褒美程度。

  ・従業員の自主性に任せ、参加したくなる工夫を用意。

  ・少しずつ参加者が増えている。

 

 ②スループット

 ・学術的前提として、健康経営と組織成果の関係の検証は難しいが、

HRM施策➡個人・集団態度➡成果という流れが存在することが想定されており

最終成果までの間に様々なスループットが存在すると考えられる。

両社では注目するスループットが異なる。

 ・SCSKでは、働きやすさと働き甲斐を明示して区別し測定

 ・フジクラでは生き生きをワークエンゲージメントとして短期変動も含め測定

 

6.3.先進事例から学ぶべきポイント

 担当者が考えるべき5点

 ・トップのコミットメントは得られるか

 ・何に取り組むか

 ・どのように

 ・施策の成果をどうとらえるか

 ・従業員をどう巻き込むか

※最後の二点は外から見えづらく、また、そのまま模倣しづらいが、この二つを無視して模倣してもうまくいかない。自社の場合にどう適用するか議論すべき。

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森永雄太(2019)『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(株)労働新聞社 :「第三章 ウェルビーイング経営の特徴」「第四章 先進事例から何を学ぶべきか」 概要・書評・まとめ

<第3章>

ここではまず、健康はモチベーションの土台であり健康が崩れればモチベーションも低下する(ただし健康だから高いモチベーションになると限らない)という考えが示されている。

そして、生産性と健康の両立を目指す理論的基盤として仕事の要求度ー資源モデルが提示されている。仕事の要求度は、身体的、認知的、感情的なものがある。資源の例として、課題の多様性、仕事の裁量権、フィードバック、周囲からのサポートがある。

要求度⇒健康とエネルギー減少⇒組織成果低下、

資源⇒モチベーション⇒組織的成果向上、

という直線関係だけでなく、

要求度が高いと、資源とモチベーションの関係が強まる

資源が高い(多い)と、要求度と「健康エネルルギーの減少」の関係が弱まる(悪影響の緩和)

という、要求度と資源の相補的な関係がある

 

そして、ウェルビーイング経営は健康経営と比べ促進効果への注目、ポピュレーションアプローチ、自己管理などの特徴が強調されていること、安全衛生などの部門だけでなく人事や他部門含め全社的問題と捉えるべきことが確認されている。

 

また、ウェルビーイングの概念として、

1:主観的ウェルビーイング 

快楽やハピネス。高い肯定的感情と低い否定的感情、生活満足度で構成される。

2:心理学的ウェルビーイング

人生の意義や可能性に注目したウェルビーイング

3:ワーク・エンゲージメント

仕事関係に限定。▼活力、情熱、没入など

 

4:心理的健康職場

①健康職場施策

・WLB,成長育成

・健康安全

・承認

・巻き込み

②従業員ウェルビーン

・身体的精神的健康

・ストレス、満足、コミットメント、モチベーション

・モラール・風土

③組織の改善

・業績、生産性

・アブセンティーズム、離職率

・事故・負傷率

・コスト削減

・製品・サービス品質、顧客満足

①が②と③を促し、②が③を促す。ウェルビーイングを職場全体の問題と捉え業績と健康の両立を促す考え方。

 

そして、5つの施策として、

・健康と安全

・WLB

・巻き込み

・成長と育成

・承認(評価、報酬)

があげられている。

 

4章では、ウェルビーイング経営を実施するに当たり、

・参考事例がない

・成果が測れない

・参加者がいない

という3つの問題が指摘されている。

 

そして、先進事例から学ぶ際には、表面的な模倣ではなく、施策推進者の思想、狙いや(仮説)や、仮説が成り立つ論理を理解すること、

結果だけでなく、失敗も含めたプロセスに注目して学ぶことが推奨されている。

 

▼感想・論点

JD-Rモデルでは、課題多様性、自己裁量が資源とされている。

これらは人によっては要求度を高めると捉えるかもしれない。

課題多様性、自己裁量は職務特性理論においてもモチベーターとされており、

当時は2次産業が今よりも中心的だったことが影響しているかもしれない。

また、欧米における個人主義的価値観が影響していそうだ。

 

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森永雄太(2019)『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(株)労働新聞社 :「第二章 経営学における従業員の健康問題」 概要・書評

第二章:経営学における従業員の健康問題

2.1. ヘルシーカンパニーを超えて

・1986年 R.ローゼン『ヘルシーカンパニー』

 ・健康管理と経営管理が分断されていることを批判し、両者の統合を主張

 ・メンタルヘルスに注目

 ・従業員のライフスタイルと職場環境双方に注目

・現在の健康経営に受け継がれている部分も、取り残されている部分もある。WB経営はローゼン教授の主張に再注目するもの。

▼何が取りこぼされているのか???

 

2.2.フィラデルフィア調査

・負担の重い労働条件による離職に対応するためのアクションリサーチ

・休憩など労働環境の整備の重要性とそれが業績に及ぼす影響の可能性、健康を経営管理の問題と捉える。

2.3. ホーソン工場実験

・同上の知見

 

2.4.人間モデルの転換

経営学における健康への関心が衰退

・背景:マクレガーによるY理論:人間は自ら目標のために努力する 

 ⇒従業員の積極的意欲を引き出すことに焦点

2.5.動機づけー衛生要因理論

・Y理論と類似、動機づけ要因、仕事そのものこそが高い満足をもたらすという見方

・労働環境、人間関係は不満足を予防する衛生要因に留められる。

・70年代以降、職務設計とモチベーションの研究に焦点が集まる。

 

2.6. 見過ごされた健康への眼差し:デイリーモチベーション調査の分析結果を元に

・著者らは過去、日常レベルのモチベーションとその理由を、毎日の就業時間間際に記録してもらう3週間の調査を行った。

・そこでは、天候や体調など直接管理しづらい要因が10%程度、モチベーションの増減の要因(33件)としてきされていた。それらの要因は、低いモチベーションの要因(25件)として語られることが多かった。

 

▼感想

・必ずしも動機づけ衛生要因理論は実証的支持を得られておらず、近年研究で取り上げられることは稀であった。必ずしもこの理論だけが経営学における健康への関心の低下の原因となったわけではないのでは。

モティベーションに関しては理論が山ほどあるのに健康に関して経営学の理論があまりないように見えるのは不思議。

経営学の中でも、産業組織心理学や組織行動論は心理学の研究の影響が強い。特に目に見える反応に注目する行動主義が産業心理研究の中で時代遅れのものとされ、認識に関心が集まった1970年代後半において、身体的なものは心理学系の経営研究者にとって扱いづらい対象、そもそも分析対象外だったのかもしれない。

森永雄太(2019)『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(株)労働新聞社 :「はじめに」「1章」の概要  2023年7月6日 

森永雄太(2019)『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』(株)労働新聞社 :「はじめに」の概要  2023年7月6日        

はじめに

【イントロ・鍵概念の提示】

<導入>

ウェルビーイング:「幸福感や満足感があり、それほど大きな悩みもなく、身体的精神的に健康で、生活の質も高い状態のこと」 本書p.i アメリカ心理学会 心理学大辞典

・従来の健康経営… 経営効果を重視せず、不調になった従業員の回復が焦点

・WB経営… 業績向上

<WB経営の特徴>

・「健康とは、病気でないことや弱っていないことではなく、肉体的・精神的・社会的に完全に満たされた(ウェルビーイングな)状態」 本書p.ii

・3つの特徴

 ・仕事に対し前向きに取り組むことを促す

 ・個人ではなく組織全体の課題に注目

 ・セルフマネジメント、自らウェルビーイングな状態を作り出せる人材育成

※甘やかすのではなく、自己管理をし活力を仕事に向けることを求める。結果、従業員のヘルスリテラシーの向上、良い人生への効果も見込まれる。

【問いの提示】

<本書で取り上げる3つの疑問>

  • なぜいまウェルビーング経営に取り組むべきか
  • 先進事例から何を学ぶか
  • どのように始めるか

【構成】

<健康経営の新展開としてのWB経営>

・Ⅰ部:この20年ほどで健康経営が注目 その背景、研究の流れ

<先進事例に学ぶ>

・健康経営の先進企業がすべてWB経営の先進事例だとまでは言えない。

・本書Ⅱ部ではWB経営成功例に近いSCSKとフジクラの事例を扱う。

<HHHの会での実践から>

・Ⅲ部:Human Health Hapinesst の会 攻めの健康経営の研究会からの知見を紹介

ウェルビーイング経営を展望する>

・Ⅳ部:WB経営を浸透させるための体系的取り組み、必要な担当者のスキル

<想定読者>」

・健康経営、WB経営に興味のあるすべての人、経営者、担当者、人事、コンサル・専門職、研究者

 

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「第1章:健康経営とはなにか」

  • 1 健康経営とはなにか

・健康経営 岡田邦夫「利益を創出するための経営管理と、生産性や創造性向上の源である働く人の心身の健康の向上をめざして、経営の視点から投資を行い、企業内事業として起業しその利益を創出すること」

▼健康経営も本来は経営効果を狙うもの 健康経営は商標登録済み

・2018年 健康経営銘柄 26社選定 

▼2023では31業種49社⇒1業種1社でなくなる https://www.meti.go.jp/press/2022/03/20230308003/20230308003.html

・健康経営優良法人制度:中小も対象、大規模法人部門はホワイト500

1.2.健康経営に期待される成果

 ・医療費削減

 ・メンタルヘルス対策

 ・業績…プレゼンティーズム

 ・ブランド…人材募集、資金調達

1.3.健康経営を始める、1.4.健康経営は一連のプロセス

経済産業省 商務情報政策局ヘルスケア産業課「企業の「健康経営」ガイドブック」https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdfを参照

・自社の健康経営の課題の把握

・様々なレベルでの連動した取り組み

  • 経営理念・方針:トップのメッセージ発信
  • 組織体制:担当者の知識、他部門の協力
  • 制度・施策実行:経営陣のリーダーシップ、産業保健部門と人事の協力
  • 評価・改善:複数の時間軸で
  • 法令遵守・リスクマネジメント

※推進者の悩み:1,2にトップの理解が得られない、3,4の質向上⇒健康経営の浸透を示す

1.5 健康経営評価:構造・過程・成果

 

「企業の「健康経営」ガイドブック」p.12から引用

 

※プロセスは単年度の施策実施場供養やそれに伴う変化

 成果はより中長期のもの

 

1.6.健康経営の「過程(プロセス)の評価」

 

「企業の「健康経営」ガイドブック」pp.23-24から引用

※課題把握に関して、ガイドブックとして列挙しているが、自社の経営課題に合わせて、場合によっては独自の指標も合わせてチェックすることが重要

※対応・施策実施 :ハイリスクアプローチ(生活習慣病の高リスク群など)、ポピュレーションアプローチ(従業員一般、この取り組みは制度利用が一部従業員にとどまるなど課題があることが多い)

※効果検証として、ワーク・エンゲージメントは業績とメンタルヘルスの両立に向けた鍵概念。ここも今後、力を入れて取り組むべき。このような業績に関連する指標の活用はまだまだ。

▼感想

・健康経営とWB経営には実質的な意味の差異がないように思える。

・職務満足に関連する研究、職務特性理論やハーズバーグの動機づけ要因など、およびそれに基づく実践(職務拡充、ジョブ・クラフティング)など仕事そのものに注目した分析などを健康経営の研究と実践がどのように継承したのか、あるいはしなかったのか、は疑問。

 

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ゲイリー・レイサム 『ワーク・モチベーション』 第一章 1900-1925年のモチベーション研究 概要 書評 まとめ

Work Motivation

History, Theory, Research and Practice

Gary Latham 2007 by Sage

ワークーモティベーション
初版第一刷発行
著者   ゲイリー・レイサム
監訳者  金井壽宏訳者  依田卓巳
発行者  軸屋真司
発行所  NTT出版株式会社

 

第一章 生物学、行動、金銭

 

まず、本書で扱われる広範な問題の範囲についての説明が為される。モチベーションと欲求、情緒、認知の関係、管理者の役割、目標設定との関連などなど幅広い。

次に、心理学研究においてフロイトの無意識に関する議論が、計測できないものとして否定ないし排除されたことが示されている。その後、ワトソン、ソーンダイクによる行動主義の見方、直接観察でき社会的に共有できるものに着目し、刺激に対する反応(行動)、もしくは反応をもたらす刺激を解き明かすものとして行動主義の考え方が紹介される。その後、科学的管理が、有効かつ効率的な業務の遂行に対して報酬を提供し、それが満足をもたらすという考え方が示される。

加えて、組織におけるモチベーションについて心理学者は第4四半期、1975年頃まで関心を殆ど持っていなかったことが指摘される。さらに、モチベーションを解き明かす上で、フロイトの方法論によらない形で無意識の影響を検討すべきことが指摘されている。